
6月5日、横浜の3Dシアターで開催されたハースストーン日本春季選手権にジェイナ・プラウドムーアがやってきた。元気にマナ・ワームを召喚し、コインを賭けてほかの来場者と対戦している。対戦の合間には会場のシルヴァナス・ウィンドランナーと共にファンの写真撮影に応じていた。
…彼女は一般の来場者だ。扮するのは声優のキャスティングや番組の企画制作がお仕事という「トオル」さん。趣味でありながらコスプレ歴15年のベテランである。身にまとうジェイナの衣装は、鎧からウィッグまで全てが手作りだ。
何が彼女をジェイナのコスプレに走らせたのか。衣装の制作過程等を含め、以下にトオルさんのインタビューを掲載する。
―本日はよろしくお願いします。まさか「ジェイナ・プラウドムーア」が会場にいらっしゃるとは思いませんでした。
トオル: 私も本当に許可いただけるとは思っていませんでした。当日はジェイナの衣装を携えて来場し、ダメもとでスタッフの方に訊いたんです。許可いただけなかった場合は衣装を会場のロッカーに預ける予定でした。
すると「ジェイナなら大丈夫ですよ」との返事でしたので……。
―それで無事ジェイナに扮することができたわけですね。
トオル: ええ。それでも無線で「すみません、ジェイナのコスプレをしたいというお客様がいらっしゃいますが……」と連絡されたときは緊張しました(笑)。
「炉端の集い」会場でのトオル氏
―ハースストーンのイベントに参加するのは初めて?
トオル: 以前からオフラインイベントには興味を持っていたのですが、なかなか参加する勇気がありませんでした。それで今回は行こうかなと思っていたんですが、ちょうど「どうせならコスプレして行ってこい!」と後押ししてくれる人もいまして。結果的に初めてのオフラインイベント参加でコスプレということになってしまいました。
幻想的な1枚
―ジェイナのコスプレを作ろうとしたきっかけは?
トオル: ハースストーンが好きだからです! コスプレには慣れていましたし、日本のハースストーンコミュニティには個人でコスプレをされている方がいなかったので、「先駆けとなって盛り上げられれば!」と思いました。
7/30(土)に始まった週間生放送「はすすと!」のワンシーン。背景のジェイナと「完全に一致」しているトオル氏
―コスプレ歴も15年とのことですね。
トオル: 最初は友だちに「ちょっとやってみない」と勧められたのがきっかけでした。まさか15年も続くとは思っていませんでしたが……。扮したキャラクターの数はおそらく100人は超えていますね。
―今回のジェイナの衣装の製作過程について教えてください。
トオル: 私の場合どのコスプレでも同じですが、まず新聞紙を切り貼りして、紙の衣装を作るんです。それで大まかなサイズ感がつかめたところで実際に生地を切り貼りして、装備品を作り、塗装して完成…という感じです。
制作中の胸当て
―絵でいうところの「下書き」が新聞紙にあたるわけですね。
トオル: はい。人によっては綿密に設計図のようなものを描いてから制作に取り掛かるようですが、私はぶっつけ本番で作るタイプですね(笑)。細かくサイズを計ったりはしません。
自分が着るものですし、サイズは経験でなんとなくわかるので。直感で切り貼りしていきます。
―制作で苦労した点は?
トオル: 鎧が大変でした(笑)。丸みのある、胸当ての部分ですね。今までにこういった鎧のようなものを作ったことはなかったんです。
コスプレでは、装備品は基本的に「ライオンボード」という、ぶよぶよした板で作ります。発泡スチロールがさらにぐにゃぐにゃになったような、スポンジのような材質です。素の状態でも曲げたりできますが、熱を加えるとさらにやわらかくなります。
これを使ってジェイナの胸当ての部分も作ろうとしましたが、それがなかなかうまくいかない。熱を加えても、「平べったい板を膨らませ、丸みを持たせる」のは難しかったんです。結局は変形させやすくするため、板に切れ目を入れることになりました。
胸当ての部分。切れ目を入れて曲げているのがわかる
―「板に切れ目を入れて曲げやすくする」ということですね。
トオル: はい。「折り紙に切れ目を入れて折る」というようなイメージです。その後ボウルを用意し、それに板を押し当てて丸くしました。
ところが、そうすると当然、切れ目が残っているわけですから……今度はその切れ目と切れ目がくっついてくれない(笑)。膨らんだ胸当ての周りに段差がある、という状態です。デコボコになりながら何度も試した結果、ようやく今の形に落ち着きました。
完成形、塗装もあって切れ目が目立たなくなっている
―所要期間はどのぐらいでしたか?
トオル: けっこう長くかかって……1カ月ぐらいですね。毎日毎日、仕事が終わってからの時間や、休日に作業を続けていました。
―かなり苦労されたんですね。
トオル: はい。それでも日本春季選手権で披露したことで注目されて、友達も増えたのでよかったです。おかげさまで、1人でゲームしているときも「こんばんわー」と挨拶が飛んできたり、観戦してもらえるようになりました。最新のデッキや戦い方などもよく教えてもらっています。
「ジェイナ・プラウドムーア」完成版写真
―別の話題になりますが、ハースストーンを始めたきっかけについて教えていただけますか?
トオル: 勤めている会社で流行っていたんです。小さな会社なんですが、社長も含め、皆さんゲーム好きなんですよ。仕事が終わったら社内でゲーム、みたいな雰囲気です。
それで、ハースストーンも「このゲームマジでおもしろからやってみなよ」と社長に勧められて……。カードゲームはこれまで触れたことはなかったんですが、ハースストーンはチュートリアルから丁寧にできていて遊びやすかったですね。
基本デッキに新しいカードを入れて、徐々に強くなっていく過程とか。西洋風のグラフィックやシンプルなUIも好みでした。魔素でどんなカードも生成できる、という仕組みも親切でよかったですね。
ゲーム内とコスプレのジェイナの比較
―元々はヘビーな対戦ゲーマーだったのでしょうか?
トオル: いえ、そんなわけではないですよ。主に日本の家庭用ゲームをプレイして育ちましたが、格闘ゲームのような、練習が必要で相手と競い合うようなゲームは苦手でした。
―トオルさんはTwitchで配信するほか、世界観を伝える「ジェイナ先生のハースストーンカード講座」といった動画もアップロードされていますね。これらの活動を始めたきっかけは?
トオル: 友達によくゲームの配信をしている方がいたんです。それに触発されてTwitchの配信を始めました。また、ジェイナ先生の動画は(ハースストーンと世界観が同じ)映画「ウォークラフト」を見たときに、その世界観を全然知らないことに気付いたのがきっかけです。「グルダン」が悪役だったり、「ドゥームハンマー」にもいろんな意味があったり……。そういった知識を面白く紹介できないかなと思いました。
「ジェイナ先生のハースストーンカード講座」収録風景
―ちなみに収録はどこで?
トオル: 会社の中です(笑)。社長を含め皆さん理解があるので。もちろん勤務時間外ですが……。
―なるほど(笑)。今後もこういった活動は続けられていくのでしょうか?
トオル: そうですね。基本的には何か面白いことをやって、コミュニティに貢献したいと考えています。あとは個人的な願望ですが……いつかブリザードの一大イベント「BlizzCon」に行ってみたいですね。
―最後に何かメッセージがあればどうぞ!
トオル: ハースストーンをプレイするコスプレイヤーがもっと出てきてほしいな、と思っています。一緒にハースストーンとコスプレを楽しみましょう!
―本日はどうもありがとうございました。
トオルさんの一番好きなカードは「炎の王ラグナロス」。初めて当たったゴールデンのレジェンドミニオンだとか。
関連リンク
- トオルさんのTwitter: @tooru916
- ハースストーン生放送「はすすと!」録画
- 映画「ウォークラフト」公式サイト
これまでのコミュニティ・インタビュー
- ハースストーン春季選手権日本代表、Jako1910選手
- ハースストーン実物カードフレーム制作、山本かな氏
- 4月アジア地域最速レジェンド、Tredsred選手
- ハースストーン冬季選手権日本代表、mattun選手 - 大会後インタビュー
- ランク戦プレイ2月シーズン日本トップ、NanoSecond選手
- ハースストーン世界選手権ベスト4、Kno選手